2014年12月01日

サステナビリティレポート 特集

「大手町タワー」都市と自然の再生

2014年4月に全体竣工した「大手町タワー」の最大の特徴である、敷地全体の約3分の1に相当する約3,600mm²におよぶ「大手町の森」。これは「都市を再生しながら自然を再生する」という開発コンセプトを具現化した新たな挑戦です。そして大手町5駅の中心となる場所で地域ネットワークの結節点となり、都市のにぎわいを再生することが、もう一つの重要な目的です。

都市開発・ビル商業施設サステナビリティ

大手町に「本物の森」が息づく

自然から学んだ森の3要素「疎密」「異齢」「混交」

「仲通りの起点として、丸の内から永代通りの幅広い道路を渡って人を呼び込むには、単なる緑地ではなく、より強い特徴が必要ではないか」「大手町という日本の中心といえるオフィス街であればこそ、その対極ともいえる野性味のある『本物の森』に意義がある」。こうした想いから、オフィス街に本物の森を再現する「大手町の森」の検討がスタートしました。
利用者にとって心地よい「本物の森」とは何か?実際に複数の自然の森を調査してわかったのは、複雑な起伏の中で木が密集したりまばらだったりすること(疎密)、幹の太さや木の高さなどさまざまな樹齢の木があり常に入れ替わっていること(異齢)、常緑樹・落葉樹・地被類など多様な種類が混ざっていること(混交)、この3要素を有していることでした。
これらを計画的に取り入れて「本物の森」をつくる。そのために、敷地の中で森と通路をはっきりと分け、集中して森づくりに取り組みました。

【異齢】大きな木だけでなく、生長競争に負けたような細い「負け木」なども加え、自然のもりを再現
【混交】いわゆる雑木林、常緑樹・落葉樹・地被類など様々な種類が混ざり合い、入れ替わる若い森を再現することを目指しました

実際に森をつくってみて検証する

ビジネス街に「本物の森」をつくり維持するには、何をどう植え、どう管理するべきか、初めての挑戦だけにわからないことだらけでした。そこで「プレフォレスト」という手法を活用しました。千葉県君津市の山林に約1,300m²(「大手町の森」全体の約3分の1)のスペースを確保し、土の起伏や人工地盤、土壌の成分、樹木の密度や種類などを、計画地と同じようにつくり、約3年かけて施工方法や植物の生育、適切な管理方法を検証しました。この結果をもとに、君津から大手町に育成した土壌や植物を移植しつつ、敷地全体に「本物の森」を再現したのです。
森に植えた木々は、遺伝的かく乱に配慮するため、関東近郊の山から集められました。約200本の木は園芸用の形の整った木ではなく、まさに自然の中で、計画地の地形にあわせて選ばれた自然の木です。

プレフォレストから移植への流れイメージ

時とともに高まる生物多様性

竣工した2013年の10月より2014年12月まで行った生物多様性調査では、驚くべき結果がみられました。当初、施工時に意図して植えた植物は樹木・地被類あわせて約100種でしたが、約1年半後に確認された植物は約300種であり、200種ほどが増えていました。多くは土壌の中に含まれていた種子から発芽して育ったものと考えられます。この中には国や都のレッドリストに記載される希少種も含まれます。
また、鳥類は複数の種が定着し、渡り鳥も立ち寄っていることがわかっています。昆虫類は水場があるためかトンボが多くみられ、皇居から飛来していることが予想されます。
このように時とともに生物多様性が高まっており、今後も周辺緑地とのネットワークによって地域全体の生態系に貢献していきます。

「大手町の森」の植物、鳥類、昆虫(生態調査報告書等より抜粋)
左上からヤマザクラ,スジグロシロチョウ,ニリンソウ,オヘビイチゴ,ムスジイトトンボ,ヤブツバキの花とメジロ,カタクリ,キツネノカミソリ,キビタキ,アオモンイトトンボ

水と空気の流れを変える

一般的な緑地と違い、約3,600m²というまとまった緑は周辺地域にも影響を及ぼします。緑地が気温の低い領域(クールスポット)を生み出し、ヒートアイランド現象の緩和に貢献します。夏場はベンチで涼をとる人々も多く、憩いの場となっています。
また近年頻発している局地的豪雨などに際しても、まとまった土壌を保持していることから、一定の保水機能が期待でき、水害の抑制に貢献します。実際に、竣工からこれまで大雨によって土壌が流れ出すような事態は発生していません。
これらの取組みと効果が評価され、大手町タワーは環境に関するさまざまな表彰・認証を受けています。

大手町タワー・大手町の森に関する表彰・認証実績

  • 「DBJ Green Building 認証」の最高ランク「プラチナ」認証(2013年11月)
  • 「いきもの共生事務所*認証制度(都市・SC版)」の第1号認証取得(2014年2月)
  • 第30回 都市公園コンクールで最高位「国土交通大臣賞(企画・独創部門)」受賞(2014年10月)
  • 「SEGES(社会・環境貢献緑地評価システム):都市のオアシス2015」認定(2015年9月)
  • 第35回「緑の都市賞"国土交通大臣賞"」受賞(2015年10月)
歩行者スペース(右側)と森(中央)を分け、従来の人工的広場とは一線を画した野生をあわせ持つ自然の森を再現
地面はさまざまな種類の地被類が覆い、高木の疎密がつくる光と影のコントラストが景観に奥行きを与え、自然感を高める

大手町のターミナルとして「都市のにぎわい」を

地域の歩行者ネットワークの拠点を目指して

大手町タワーは地下鉄5路線の大手町駅に囲まれた中心に位置し、東西線と丸ノ内線に接しています。また地上においては、丸の内からつづく仲通りを神田方面へ連続させる際の起点となる位置にあります。地下の中心と地上の仲通りを結ぶことで、地上と地下を人が行き来し、新たな「都市のにぎわい」をつくりだすことを企図しました。
従来、大手町駅は細い通路でつながれた移動するだけの地下道の様相を呈していました。そこで大手町タワーでは、にぎわいや快適さにつながる「大きな空間」を生み出すことを念頭に設計。直結する東西線大手町駅のコンコースを大きく拡幅し、丸ノ内線との連絡通路の幅を広げて歩行者のアクセスを改善しました。地上への出口となるプラザは、地上と地下をつなぐ空間となっています。
地上部分は将来、神田方面の仲通りにつながるよう、歩行者空間を集約して十分な幅員を確保しました。

大手町5駅の中心に位置する
丸の内から神田方面の仲通りの起点に位置する
地下鉄歩行者ネットワークの整備
歩行者空間を集約して仲通り機能を強化

地上と地下をつなぐ大空間「プラザ」

大手町駅から地下街をぬけると目の前が一気に明るくなり、大きな空間が広がります。地下2階から地上に向けた吹き抜けの大空間「プラザ」は、3フロア分に相当する高さの大きな開口部を設け、エスカレーターの配置にも工夫することで、自然光が地下まで届くとともに、地下からも「大手町の森」が見えるようになっています。建築とランドスケープが一体となることで地下の閉鎖的なイメージを一新させ、緑と光にあふれた空間を実現できました。
地下街部分についても、店舗正面を開放的なデザインとし、プラザの空間との一体感をもたせています。
また、地下大空間は防災拠点としてもその役割が期待されています。非常時には帰宅困難者を受け入れ、プラザに設置したデジタルサイネージで情報提供することを想定しています。72時間は電力を供給できる自家発電設備や、非常食などを保管する防災備蓄倉庫も備えています。

地下2階まで自然光がさしこみ、緑が見えることで「大手町の森」までも空間の一部として引き込むことができる
プラザは自然の光がさしこむ開放感のある空間。大きな窓の向こうには森の緑が見える
地下1階から外に出ると「大手町の森」につながっている。森を介して地上と地下の歩行者動線が結ばれる

プロジェクト担当者より:大手町タワーの見どころ、未来に向けて

大手町タワーの見どころの一つは「外光降り注ぐ魅力ある地下・低層空間」です。地下2階から1階の大規模吹き抜け空間は、オフィス・ホテル・商業施設・地下鉄のエントランス機能が結節する空間となっており、洗練されたデザインや空間のダイナミズムをぜひ楽しんでもらいたいと思います。また、プラザはどこにいても森を感じられるようにできていますので、ぜひ意識して周囲を見ていただきたいところです。
大手町の森は「生きている」ことを前提に計画されています。大小さまざまな樹木があり、それらが育っていつかは入れ替わる、そうした生きた森を再現しました。日々の管理も、なるべく自然の機能を生かし、落ち葉は集めて森に戻しています。将来、何十年か後には、成長した大木が倒れて森に日がさしこむ様子をイベントで再現することもあるかもしれません。そうした「生きている森」であることを感じていただき、これからどう育っていくか、どう変わっていくかを見ていただきたいと思います。
また、大手町タワーはホテルや銀行の本店、地下鉄の連絡通路など、常に人が集い「暮らす」に近い利用のされ方をする施設だといえます。何年も利用する中で四季の変遷を感じ、ビルが歳を重ねる様子を見ていただける、そういう「建物」になってくれたらいいですね。

左:都市開発企業部 事業開発グループ 坂田 俊介
右:ビルエンジニアリング部 建設グループ建築チーム 黒川 恭佑
  • 本ページに記載の所属や役職及び掲載内容は取材当時のものです。

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